cherry blossoms 

※エンディング後?の話。なんかぐだぐだ〜

 

 

 

 

 

 部屋に戻った穂はそこで大きく息を吐き出した。

 裏桜祭りと呼ばれる寮のその行事は本当に楽しくて、なるほど、寮生のほぼ全員がこのことに浮き足立っていたのはなんとなくわかるなぁと穂も思うことが出来たのだが、にしても祭り特有の高揚感に皆が包まれすぎていて、正直、それらをかわすのは大変だったなと思っていた。

 騒ぎに乗じてなんとやらで。

 普段全く話したことのない相手、といってもたいして日数も経っていないのでほとんどが話したことない相手なのだが、そんな彼らが祭りという雰囲気にのまれて、穂にやたらに話しかけてこようとする。

 少し面倒くさいなと思っていた穂は、みんなの牽制が効いたおかげで、他の誰かと話すということはしなくてもすんだのだが、やはり注目される視線にはどうしても気が張ってしまって、全てから逃れられたと思ったこの瞬間、肩がものすごくこっていることに気がついていた。

 

 

「お疲れ様〜」

 祭りが終わり、穂が部屋へと戻ってきたことにいち早く気がついた準也が、扉の前で息をついている穂の元へとすぐに駆け寄ってきてそう答えた。

「ただいま、準ちゃん。もう戻ってきていたんだね。」

「うん。ほら、僕人気者だから。なんだか疲れちゃってて…、だから早めに部屋に戻ってきたんだ。」

「そっか…大変だね。」

「穂ちゃん…、」

 準也が言いたいことがわからないのか、穂は、ん?という表情をして準也を見上げていた。

 そんな穂の言葉に準也が困ったような感じで笑んでいると奥から声がかかる。

「穂にその手のことを言っても通じないってわかってて準也は言うんだから…、」 

 扉の前で話している二人に、晶は奥の扉から顔だけを出して冷たく言った。

「あっ、晶くん。戻ってきてたんだ。」

 体躯の大きな準也が目の前にいるので、穂も晶と同じような感じで準也の脇から顔を出して、晶へと声をかける。

「うん。なんだか疲れたから、結構早くに拓と一緒にね。…っと、ここ開きっぱなしだと寒いから二人ともさっさと中に入りなよ。」

「あっ、うん。」

 晶に促された二人はそこからすぐに移動した。

 

「お帰り、」

「ただいま、拓くん。」

 中に入ると拓が自分のベットへと寝転がっていた。

「なんか疲れてない?」

 穂は自分のベッドへと座って隣のベッドの拓を覗き込むような形をする。

「そーなんだよね〜。珍しく拓くん張り切っちゃったから今かなりお疲れ気味なのよね〜、ねっ、拓くん。」

 準也は拓のベッドに座ると、拓の頬をつついた。

「やっ、やめろっ」

 準也のその手を鬱陶しそうに払う。

「張り切ってたの?」

 穂が引っかかった部分を尋ねてきたので、それに準也が何故だかにやにやしながら答えてきた。

「うん。いっつもは晶くんだけでいいけど、今日は穂ちゃんもいたからね〜。穂ちゃんも見てたでしょ、拓くんの大活躍。」

 準也に言われてそういうことかと穂は納得する。

「そっか。ごめんね拓くん。とっても助かったよ、ありがとう。」

「いや…礼を言われるようなことはしてない。だから気にするな。」

 穂が頭を下げてきたので、拓はよっと起き上がるとそう告げた。

「ンッ、起きるの、拓くん?」

「ああ。寝てるとおまえに何されるかわからないからな。」

 言ってるそばからつついてきそうなその手を先に払いのける。

「やだな、信用ないんだ、僕。別に襲ったりはしないよ。」

「準也おまえぁ…、」

 何を言い出すんだと拓が呆れた視線を向ければ、準也はにっこりと笑った。

「えっ、そういうことじゃないの?」

「どう考えても違うだろう。」

 拓はベッドヘッドに寄りかかると大きく息を吐き出していた。

「大丈夫、拓くん。」

 すぐに心配そうに穂が声をかける。

「準也の相手してたらなんだか疲れがぶり返してきた。」

「ひどい、拓くん。」

 準也が泣くマネをすると少し離れたところから違う声が飛んできた。 

「どっちが。拓は本当に疲れているんだから、あんまりからかわないでよね。はい、穂。」

 晶がいないと思っていたら、晶は穂のために紅茶を淹れてきてくれていた。

「ありがとう。」

 受け取った穂はにっこりと微笑む。

 晶も拓の机の椅子に座りながらそれには笑顔で答えていた。

「晶くんは味方だと思ったのに…。」

 晶に向けて悲しそうな表情をすると、晶はそれを冷めた目で一蹴する。

「晶くんまで……みっ、穂ちゃんは僕の味方だよね?」

 拠り所を見つけられそうな準也は笑顔で穂を見ると穂は晶に入れてもらった紅茶を飲みながら、何が?と小首をかしげていた。

「……穂ちゃんまで…、」

「お前の味方は誰もいないようだな。」

 休んでいたところを邪魔された拓はここぞとばかりに準也を軽く言葉で攻撃する。

「ううっ……、みんなひどい……」

 準也は唸りながら悲しそうにそれぞれを見ていった。

 準也が本当に悲しそうな表情をしていたので、晶は仕方なさそうに声をかけてやる。

「でもさ、鍛えている拓より元気って…準也の体力って一体どうなってんの?」

 するとさっきまで悲しそうな表情をしていた準也が一転、ぱぁっと明るい表情をする。

「僕?そんなに体力ないよ。拓くんは真面目だからなんにでも一生懸命でしょう?僕は適当に力抜いてるからそんなに疲れてないんだよ。」

「準也……、」

 答えた内容よりも準也に騙されたことに晶はムッとした表情をしていた。

「晶は根が素直だからな…」

 それを見て拓は小さく言う。

「騙されやすい。」

 それに穂がさらに小さな声で言った。

「穂、」

「穂ちゃん…」

 すぐ傍にいた拓と準也は穂の声が聞こえたので驚いたように穂を見る。

 穂から少し離れた位置にいる晶にはその声はどうやら届かなかったらしい。

 驚いている二人を見て、どうしたんだろうという表情をする。

「なに?」

「いや…たいしたことじゃない。」

「二人ともそんな顔してなかった。」

 拓の答えに納得がいかないのか晶はさらに言った。

「それは……、」

 拓がそれに困っていると、そのときまるで救いの手のような音が響く。

 それは部屋の扉をノックする音だった。

「ん?…まだ点呼の時間じゃないよね?」

「そうだな…。」

 準也と拓がそれに不思議そうな顔をしていると、穂が立ち上がる。

「僕、見てくるね。」

 そうして部屋の入り口まで穂は小走りでいった。

 

 

 もう一度部屋の扉を叩く音がする。

「はい、」

 穂は返事をしてから鍵をはずし、扉を開けた。

「こんばんは。」

 目の前の長身に穂は視線を上げる。

 確認した穂は少し大きな声を上げていた。

「まこちゃんっ、」

 そこには両手にビニール袋を提げた眞人が立っていた。

「どうしたの?」

「遊びに来たんだよ。迷惑だった?」

 点呼ではないだろうことは察しがついて穂が尋ねると、眞人はさらっと返してくる。

「あっ、ううん。」

 穂は首を横に振った。

「中に入ってもいいかな?」

「あっ、はいどうぞ。」

 スペースを空けて中に入れるように促すと、眞人は遠慮もせずにさっさと中へと入り、奥の部屋まで歩いていく。

 穂は扉の施錠をしてから、そんな真人の後をついていった。

 

 

 

 奥の扉を開けたままだったので、穂の声が聞こえたらしく拓と晶は来た相手が眞人と知って、少し緊張しているようだった。

「眞人さん、いらっしゃい〜」

「別にお前に会いに来たわけじゃない。」

 二人とは違って慣れている準也がそう言うと、眞人はさらっと返してくる。

 それから眞人が拓と晶に順番に視線を向けると二人とも同じように軽く会釈をした。

「この時間で全員揃っているんだな。関心、関心。」

「点呼じゃないですよね?」

 拓が言うと眞人は頷く。

「全くの私用でここに来たんだよ。遊びに来ただけだけど…他の部屋は結構まだ人数そろってなかったからな。」

「あちこち回ってきたんですか?」

「用事があったからね。」

 穂が尋ねると眞人は笑顔で答えてから、持ってきた袋を準也へと差し出した。

「これって……、」

 両方とも受け取った準也はその匂いで中身に気がつく。

「ああ、余ったヤツ。残しておいてももったいないからな。誰かの胃袋に強制的におさめようかと思ってな。…ああ、ありがとう。」

 穂にすすめられて、眞人は穂のベッドへと腰を下ろした。

 すすめた穂は自分の机へと座る。

「大丈夫そうなのが一人いる、だろう?」

 そう言って眞人は拓の方へと視線を向けた。

「えっと……俺ですか?」

「ああ。人気者たちはちゃんと食事をする機会もなかっただろう?」

「はい。お心遣いありがとうございます。」

 確かに小腹がすいていた拓はそんな眞人の心遣いに感謝する。

「気にするな。あまっても本当困るんだよ。毎回本当後処理が大変なんだって。」

 すると眞人はそう言って笑った。

「足りないと困るだろう?だからどうしても大目に用意するんだがな…去年はそれでも足りなかったんだ。だから今年さらに量を増やしたら今年はあまってしまって…、」

 その処理に持ってきたんだと眞人は言い、だから気にするなと言葉を続けた。

「それに、ガタイがいいくせに見掛け倒しのやつもいるしな。」

 視線を向けると、準也は眞人が持ってきたものをみのりと一緒に拓と穂の机に並べていた。

「それって準也ですか?」

 ならば飲み物がいるかもと椅子から立ち上がり移動しようとしていた晶がその言葉を受け途中で立ち止まる。

 その場所が丁度眞人の目の前だったので、眞人へと視線を向けると、眞人は笑顔で頷いた。

「そういえば準也って見た目と違って小食だよね。」

 晶の言葉に準也は小首を傾げる。

「そうかな……、」

 その言葉に晶はおもいっきり頷いた。

「背も高いし、がっしりしてるから。やっぱいっぱい食べるのかなって思うよ。」

 晶はそう言うと飲み物を用意しに部屋を出て行く。

 食べ物を並べながらそうなのかといまだ小首を傾げている準也に穂は質問した。

「準ちゃん昔から小食?」

「うん。あんまりちゃんと規則正しくも食べてないかなぁ…、ここまで大きくなれたのは成長期の神秘かも。」

 準也の言葉に穂は羨ましそうな視線を向ける。

「ッてことは食べても食べてなくても大きくはなれるってこと?」

「さぁ、どうだろうな。でも、コイツの証言とコイツを見る限りじゃそうなんだろうな。」

 穂の言葉に眞人が答えた。

「そうなんだ…、」

 ひどくショックを受けている穂に準也はそっと声をかける。

「穂ちゃんもしかして大きくなりたかったの?」

「うん。」

 穂はおもいっきり頷いた。

「どうして?そのままの方がいいよ。」

「それは準也、おまえの勝手な意見だろうが。」

 拓がそう言うと眞人は確かにと頷いていた。

「でもでも、こっちの方が、」

 準也の言葉に晶が割って入る。

「はい、お茶新しいの淹れてきたよ。」

「ありがとう晶くん。」

 トレーにのせて運んできた晶がそれを机の上に置いたので穂はそれをみんなへと配り始めた。

 そうしてそれらが行き渡ってから、5人で遅まきながらの夕食をとる。

 穂の机の椅子に穂が、拓の机の椅子には拓自身が座り、眞人は穂のベッドに、晶と準也は拓のベッドに座っていた。

 

 

 

 会話も弾み、持ってきた食べ物もなくなった頃だった。

 本日二度目の部屋の扉をノックする音が響く。

「はい。」

 そうしてそれに反応して出て行ったのはやはり穂だった。

 

 すぐに穂は戻ってくる。

「穂ちゃん誰だったの?」

 尋ねた眞人に返事をしたのは、穂ではなく穂の後からやってきた俊だった。

「消灯時間はとっくに過ぎているんだがな…、」

 俊の言葉に、眞人以外は部屋に備え付けてある時計へと視線を向ける。

 唯一眞人だけはわかっていたらしく、ニヤニヤしながら俊へと視線を向けていた。

「で、どしたの、俊?穂ちゃんが恋しくなった?」

 その言葉に準也は敵意あからさまに俊を見る。当の本人は馬鹿なことを言うなとそれを一蹴した。

「お前を、捜しに来たんだ。」

「ふ〜ん、珍しいね。俊が俺、をね。」

 そうして立ち上がると、いまだ部屋の入り口にいる俊をじっと見つめる。

「なんだ…?」

 その視線がなんだか居心地悪くてそう言うと、眞人は急ににやっと笑った。

「いや。愛を感じるなぁ〜…って思っただけ。」

「なっ、眞人、おまえ…って、穂何拍手してるんだ。」

 向けられた笑顔がどうにも苦手で俊は視線を穂へと向ける。

「うん。まこちゃんってやっぱりすごいなぁ〜って…、ねっ、準ちゃん、」

 穂と同じように拍手してた準也に向かって穂が言えば、準也はうんうんと頷いていた。

「なっ……お前がいないと困る奴らが大勢いたから、仕方なく探して歩いていただけだ。」

「探して歩いてくれたんだ。」

 少しうろたえているような俊に眞人はさらに追い討ちをかけるような言葉を言う。

「ほら早くしろっ、」

 そんな眞人の言葉を遮るように言った俊は何故だか少し顔を赤くしていた。

「はいはい。せっかくの俊の好意を無駄にはしませんよ。」

 眞人は言いつつ俊の元へと行く。

「お迎えが来たんで、じゃあ、俺行くわ。」

 そんな眞人に穂がお礼言いった。

「まこちゃんありがとう。」

 同じ気持ちだったほかの三人が口々に眞人にお礼を言う。

「どういたしまして。」

 それらにそう返すと、眞人は俊と共に部屋を出て行った。

 

 

「なんだかばたばたしていたな。」

 二人がいなくなると、やはりまだ疲れている感じのする拓がぽそっと言う。

「でも、楽しかったよね。」

 それに穂はそう返した。

「ああ、」

「うん。」

「そうだね〜」

 そんな穂の言葉に三人が三人とも笑顔を向けていた。

 

 

 

            おわり(2007.02.24)

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