rain drops 

※ゲームと内容は特に関係ないですが、

都築EDを見てからをおススメします。

 

 

 彼は椅子に座り、いつものように雑務をこなしていた。

 静かな室内で一人。

 黙々とこなしていく。

 元々がそう人が集まる場所ではなく、また部屋のある場所が生徒達のいる教室から離れているせいで、余計に静かだった。

 今が授業中ということも大きく関係はしていた。

 

 

 集中がふっと途切れたときに気がつく。

 

(雨…か……)

 

 雨粒がばらばらと音を立て、激しく窓を叩きつけている。

 ソレを遠くから見、聞いていた彼はふっと笑った。

 

(…そろそろ、か……)

 

 心の中でそう思っている次には授業終了のチャイムが鳴り、次の授業のための移動が始まったのか、部屋の外ががやがやとうるさくなっていた。 

 

 数分後、部屋の扉がノックされる。

「はい。」

 返事をすると静かに扉が開いた。

「失礼します、」

 声とともに入ってきた人物の足元は少しふらついていた。

「都築先生…、」

 扉を閉めつつ、相手は縋るような視線を彼へと向けてきた。

「ああ、開いてるよ。」

 都築は席を立つと、仕切られたカーテンを開けてやり、ベッドへと誘導する。

 日和はその後をふらふらとついて行きながら、ベッドまで来ると座った。

 上履きを脱ぎ横になろうとする、それを止める。

「ほら、ちゃんと上着は脱げ、」

「ぁっ、はい……、」

 言われてもたもたと上着を脱ぐ。

「脱いだら横になれ、」

 日和が脱いだ上着をさっさと取ると、都築は日和をベッドへと寝かせた。

「まったく……雨降るたびに熱を出すやつなんて美作、おまえが初めてだぞ。」

 上掛けをかけてやりながら、そんなことを言う。

「うっ……」

「おまえといるといろんなことが初体験できるな。」

「先生、なんかそれって……、」

 いやらしい言い回しだと日和が赤くなると、都築は口許で笑うだけにとどまっていた。

「もう寝ろ、そのためにここに来たんだろう?……、」

「はい…、」

 言われて日和は目を閉じる。

 都築はしばらく日和の頭を撫でてやっていた。

 

 

 

 何かの拍子に目覚めた。

 弁当箱を片手に近づいてくる都築の姿をぼんやりと見ながら、日和は目覚めた原因が、ああ匂いだったのかも知れないと思っていた。

「起きたようだな。」

 ベッドの傍にあった椅子を引っ張り寄せると座る。 

「食べるか?…どうせまた朝、薬飲むためだけに軽く食事しただけなんだろう?」」

 尋ねる形を取ってはいるが、後半に続いた言葉によってそれはある意味強制に近いものがあった。

 食欲はなく、日和が困ったように見上げると都築は笑いながらもだめだと首を横に振った。

「ぅぅっっ……、」

 仕方なしに頷き、起き上がろうとすると都築はそれを止めた。

「ああ、寝てていい。口に運んでやるから。」

「えっ?」

「起き上がるのはまだだるいだろう?」

 ソレは確かにそうなのだが、だからと言ってと思ってしまう日和は少し顔を赤くしながら都築を見上げていた。

「何がいい?」

 言いつつ、都築はプチトマトを箸でつまみあげる。

「トマトときゅうり以外。」

 ソレを見た日和はそう答えた。

「そうやって好き嫌いしてるから、身体弱いままなんだぞ。」

 都築は日和の嫌いなものを知っていてわざとやっていた。

「先生だって、…しいたけ残してますよね?」

「おまえなぁ…、普段鈍いくせにどうしてそういうことだけは気がつくんだか…」

 これではもうからかえないかと、都築は少し残念そうに息を吐き出していた。

 

 それから。

 都築は日和が食べられそうなものを選んで口へと運んでやる。

 日和はそれを寝たままもぐもぐと食べながら、小さなしあわせを感じていた。

 

 そのうちに。

 

 なんだか恋人同士みたいだと日和が一人でどきどきして赤くなっていると、都築がふむと小さく頷いた。

「どっ、どうかしたんですか?」

「んっ、いやな、こうやってるとなんだかな、…、」

 先生もそう思っているのかなと少し期待して次の言葉を待っていると、そこにはまったく違う言葉が続いた。

「餌付け、みたいだなとおもってな。」

「なっ……、」

「雛は弱いもんだが、にしても弱すぎるぞ。」

「ううっ……、」

「まぁ、その方が育てがいはあるな。」

「先生……、ひどいですよ、」

 そこまでまともに返せないでいた日和だったが、そこでようやくそれを言うことができた。

「どっちがだ。」

 ソレにたいして、都築はムッとした感じで返してくる。

「えっ?」

 どうして都築が少し怒っているのかがわからない日和は小首を傾げていた。

 そんな日和を見て都築はあからさまなため息をつく。

「おまえ…恋人同士みたいだと思っていたんだろう?」

「なっ…なっ、んで、」

 どうしてわかったのだろうかという表情の日和に都築は再びため息を吐き出した。

「おまえの考えそうなことだ。」

 きっぱり言われて日和は少ししょげる。

「ぅっ………でも、それと俺がひどいって関係ないんじゃ…」

 それを聞き、続きは三度ため息をつく。

 それから日和の目をじっと見て告げた。

「みたい、じゃなくて恋人なんだけどな。随分前から。」

 都築の言葉で日和はかぁぁっと赤くなった。

「ぁっ…その……、」

 わかってはいたつもりなのだが、日和自身はあまり自覚がなく、でもそうはっきり言われると嬉しくて、ついつい表情がゆるんでしまう。

「…まったく……鈍い上に、身体の弱い恋人を持つと苦労するよ。」

「先生……、」

 ごめんなさいと日和が謝ると、都築はしかたないと日和を許すように頭を撫でる。

「んじゃ、まっ、とりあえず食事代の請求、」

「えっ?」

 瞬間。

 唇を掠め取られる。

「せっ、んせっ、」

 さっき以上に赤くなり声を裏返らせる日和に、都築はそれまでで一番大きなため息をついた。

「いいかげん、これぐいらい慣れろっ、」

「で、でも…、」

 不意打ちは卑怯だと見上げれば、今度は宣言すればいいのかという言葉が返ってくる。

「にしてもね、先は長いな………俺もまだ若いからな…どこまで我慢できるか……」

「せっ、先生っ、」

「教職者にあるまじきとか、思ってるんだったらお門違いだぞ。俺はその前に一人の男だからな。」

「っ、…おっ、俺も男ですっ、」

「ああ、十分承知してる。その上での恋人だろう?」

 にっこりと微笑む都築の男っぷりに日和はついつい見惚れてしまう。

「はいはい、…まったく…自覚なしにそんな顔するな…特に他の輩には見せるな。」

「えっ?」

 意味がわからない日和は呆けたように都築を見上げてくる。

「いいから、頷いておけ。わかったか、日和?」

「……はぃっ。」

 不意に名前を呼ばれたことに日和は顔を赤くしながら素直に頷いた。

「よし、よし。」

 都築はよく出来たと頭を撫でながら、前途はかなり多難だともう何度目かわからないため息を心の内でしていた。

 

            おわり(2006.04.03)

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